箱根行きの目的として、歌麿の「深川の雪」と共に、箱根駅伝の5区・6区を
一度見てみたいということがあった。
単行本しか持ってなかったので、新たに買った「風が強く吹いている」の文庫本を鞄に詰め込んで。
1日目は小湧谷からバスを乗り換えて、大湧谷に行くことにしたので、
箱根湯本駅から箱根登山バスに乗り込んだ。
5区のコースとしては、箱根湯本駅はすでに登り始めている。
川沿いの山道をエンジンが唸りを上げてバスが登って行く。
函嶺洞門、大平台のヘヤピンカーブ、宮ノ下 富士屋ホテルと、お馴染みのポイントを
通過し、渋滞することもなく小湧谷バス停に到着。
箱根湯本駅前から、約500mの高低差、
テレビで見てても感じることだが、よくこんな山道を走るもんだ。
小湧園前の坂道を歩くだけでも、前傾姿勢になってしまう。
ロードバイクで登っている人が結構いたけど、ツール・ド・フランスの山岳ステージを
彷彿とさせる風景だった。
5区のコースはこの後、恵明学園前、国道1号最高地点(標高 878m)、箱根神社の大鳥居を
くぐり、芦ノ湖のゴールに到着する。
現在の5区 23.4kmに変更後の区間記録は、
東洋大 柏原選手 1時間16分39秒 (2012年 第88回大会)。
芦ノ湖湖畔のホテルに宿泊し、2日目は岡田美術館がある小湧谷まで
箱根登山バスで登って下る。
登り坂がきついという事は、下り坂も急ということは自明の理。
しかし、国道1号最高地点を過ぎると、落ちていくかというような急な坂。
積雪してたり、凍ってたら危険すぎる。
今回バスで登り下りしただけだが、小説「風が強く吹いている」の一番の見せ場が、
9区→10区の走→ハイジへの襷リレーや10区ゴールではなく、
実は6区だったのではないかと強く感じた。
5区ランナー・神童は体調を崩し、高熱・脱水症状でフラフラになりながらもタスキはつないだが、
18位に順位を落とした復路。
6区は、学生時代に司法試験に合格した秀才・ユキ。
神童とは違い、ゾーンに入った走りで、雪が積もっている中で、区間2位の走りを見せる。
ちょっと長いけれど、下記引用。
『 道端の杉の枝が、真っ白な雪を載せて重そうにしなっている。
幹は黒く濡れ、山は一晩のうちに、単色のうつくしい世界に変わっていた。
それらの風景は目の端に映ったとたんに、後方へ流れる。映画のフィルムよりも速く、
なめらかに。
そうか、これはふだん、走が体感している世界だ。ユキは胸が詰まる思いがした。
走、おまえはずいぶん、さびしい場所にいるんだね。風の音がうるさいほどに耳もとで鳴り、
あらゆる気色が一瞬で過ぎ去っていく。もう二度と走りをやめたくないと思うほど心地いいけれど、
たった一人で味わうしかない世界に。
走が、ときに行き過ぎたと思えるほど走りに没頭する理由を、ユキははじめて理解できた気がした。
こんな速度で走ることを許されたら、たしかに中毒のように耽溺してしまう。
もっと速く、もっとうつくしい瞬間の世界を見てみたい、と。それはたぶん、永遠にも似た
一瞬の体感なのだ。だが、危うすぎる。生身の肉体で挑むにはあまりにも過酷な、
うつくしすぎる世界だ。(中略)
だけど最初で最後に、このスピードを味わえてよかった。山道を疾走しながら、
ユキはうっすらと笑みを浮かべた。走、あまり遠すぎるところへ行くな。
おまえが目指しているのはたしかにうつくしい場所だけれど、さびしくて静かだ。
生きた人間には、ふさわしくないほどに。
(風が強く吹いている 新潮文庫 P.529 ~ P.530) 』
高校の陸上部時代、監督や仲間に、走ること・価値観を理解されず、一度は陸上を諦めた走。
ハイジだけが、走の過去・気持ちをわかっていたのかと思っていたが、
箱根の山下りで、ユキは走とシンクロしていたんだ。
しかも、行きすぎるな、帰ってこい、とまで。
新潮文庫の解説で、最相葉月がこう書いている。
『人には、なんのためとか、誰のためといった目的の定かでない行為を無性に必要と
するときがある。』
箱根に行って見て、その通りだと感じた。
こんな坂を何故登るんだという問いは、意味がなく、必要ない。
速くて、強くて、美しいランナーの姿を見ていきたい。
川沿いの山道をエンジンが唸りを上げてバスが登って行く。
函嶺洞門、大平台のヘヤピンカーブ、宮ノ下 富士屋ホテルと、お馴染みのポイントを
通過し、渋滞することもなく小湧谷バス停に到着。
![]() |
小湧園前 5区 14.1km地点 |
箱根湯本駅前から、約500mの高低差、
テレビで見てても感じることだが、よくこんな山道を走るもんだ。
小湧園前の坂道を歩くだけでも、前傾姿勢になってしまう。
ロードバイクで登っている人が結構いたけど、ツール・ド・フランスの山岳ステージを
彷彿とさせる風景だった。
5区のコースはこの後、恵明学園前、国道1号最高地点(標高 878m)、箱根神社の大鳥居を
くぐり、芦ノ湖のゴールに到着する。
ゴール! |
現在の5区 23.4kmに変更後の区間記録は、
東洋大 柏原選手 1時間16分39秒 (2012年 第88回大会)。
芦ノ湖湖畔のホテルに宿泊し、2日目は岡田美術館がある小湧谷まで
箱根登山バスで登って下る。
![]() |
6区のスタート風景 箱根関所南の交差点を左に折れ まず国道1号最高地点まで登る |
![]() |
箱根関所南から1号線に出た所 6区のランナーが見る景色 |
しかし、国道1号最高地点を過ぎると、落ちていくかというような急な坂。
積雪してたり、凍ってたら危険すぎる。
今回バスで登り下りしただけだが、小説「風が強く吹いている」の一番の見せ場が、
9区→10区の走→ハイジへの襷リレーや10区ゴールではなく、
実は6区だったのではないかと強く感じた。
5区ランナー・神童は体調を崩し、高熱・脱水症状でフラフラになりながらもタスキはつないだが、
18位に順位を落とした復路。
6区は、学生時代に司法試験に合格した秀才・ユキ。
神童とは違い、ゾーンに入った走りで、雪が積もっている中で、区間2位の走りを見せる。
ちょっと長いけれど、下記引用。
『 道端の杉の枝が、真っ白な雪を載せて重そうにしなっている。
幹は黒く濡れ、山は一晩のうちに、単色のうつくしい世界に変わっていた。
それらの風景は目の端に映ったとたんに、後方へ流れる。映画のフィルムよりも速く、
なめらかに。
そうか、これはふだん、走が体感している世界だ。ユキは胸が詰まる思いがした。
走、おまえはずいぶん、さびしい場所にいるんだね。風の音がうるさいほどに耳もとで鳴り、
あらゆる気色が一瞬で過ぎ去っていく。もう二度と走りをやめたくないと思うほど心地いいけれど、
たった一人で味わうしかない世界に。
走が、ときに行き過ぎたと思えるほど走りに没頭する理由を、ユキははじめて理解できた気がした。
こんな速度で走ることを許されたら、たしかに中毒のように耽溺してしまう。
もっと速く、もっとうつくしい瞬間の世界を見てみたい、と。それはたぶん、永遠にも似た
一瞬の体感なのだ。だが、危うすぎる。生身の肉体で挑むにはあまりにも過酷な、
うつくしすぎる世界だ。(中略)
だけど最初で最後に、このスピードを味わえてよかった。山道を疾走しながら、
ユキはうっすらと笑みを浮かべた。走、あまり遠すぎるところへ行くな。
おまえが目指しているのはたしかにうつくしい場所だけれど、さびしくて静かだ。
生きた人間には、ふさわしくないほどに。
(風が強く吹いている 新潮文庫 P.529 ~ P.530) 』
高校の陸上部時代、監督や仲間に、走ること・価値観を理解されず、一度は陸上を諦めた走。
ハイジだけが、走の過去・気持ちをわかっていたのかと思っていたが、
箱根の山下りで、ユキは走とシンクロしていたんだ。
しかも、行きすぎるな、帰ってこい、とまで。
新潮文庫の解説で、最相葉月がこう書いている。
『人には、なんのためとか、誰のためといった目的の定かでない行為を無性に必要と
するときがある。』
箱根に行って見て、その通りだと感じた。
こんな坂を何故登るんだという問いは、意味がなく、必要ない。
速くて、強くて、美しいランナーの姿を見ていきたい。
![]() |
6区→7区 小田原中継所 6区 20.8km 区間記録 58分11秒 駒澤大 千葉選手 2011年 87回大会 |
0 件のコメント:
コメントを投稿